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【社労士考察】賞与の給与化とは~社会保険上の影響はあるのか~

【社労士考察】賞与の給与化とは~社会保険上の影響はあるのか~

労働・社会保険

2025.10.31

こんにちは、アルク社会保険労務士法人です。

今回は賞与の給与化についてご説明させてもらいます。

「賞与の給与化」とは、企業が従業員に支払っていた年1回や年2回などの賞与(ボーナス)の全部、または一部を取りやめ、その金額を毎月の月例給与(基本給や手当)に上乗せして支払うという賃金制度の根本的な変更を指します。
近年、人材採用の競争激化や従業員の生活の安定化などを目的として、この動きが大手企業を中心に広がっています。

企業が「給与化」を進める戦略的意図

① 人材採用力の劇的な向上
求職者が最初に見る「月収」を大幅に引き上げることができます。従来の「月給25万円+賞与年2回」という募集よりも、「月給35万円(賞与含む)」といった募集の方が、特に若年層や中途採用市場において、非常に魅力的に映ります。これにより、優秀な人材の獲得競争を有利に進めることが可能になります。

② 従業員の生活設計の安定化
賞与は一般的に業績連動性が高いため、会社の業績が悪化すれば大幅に減額されたり、ゼロになったりするリスクがあります。これを月給に組み込むことで、従業員は毎月安定した高めの収入を得ることができ、住宅ローンや子どもの教育費などの長期的な生活設計が立てやすくなります。これは、従業員の会社に対する安心感や定着率の向上に貢献します。

③ 経営計画の透明化と効率化
賞与は業績によって変動するため、年間のキャッシュアウト(資金流出)を正確に見通すのが難しい側面があります。給与化することで、人件費が固定費として明確になり、経営者は年間の資金計画をより正確かつ容易に立てられるようになります。

考えられるメリット・デメリットとは

企業側
メリット
・従業員の採用力の強化:募集時の基本給や月給が高くなり、採用競争力が増す
・人件費の平準化:毎月の人件費が固定化され、予算管理が容易になる
・管理コストの削減:事務手続きの手間が(賞与支払届の提出など)が一部削減される
デメリット
・従業員のモチベーションの低下リスク:業績好調時の「ご褒美感」がなくなり、社員の努力に対するインセンティブ効果が薄れる
・人件費コントロールの困難化:業績悪化時でも月給は原則として引き下げが難しく、人件費を柔軟にコントロールすることが困難になる
・残業代コストの上昇:月給が増えることで、残業手当の計算基礎となる時間単価が上昇し、残業時間に変更がなくても総支払額が増える

従業員側
メリット
・家計の安定化:毎月の手取り収入が増加し、安定する。家計のやりくりやクレジットカード、ローンの審査などで有利に働く可能性がある
・公的給付の増額:傷病手当、出産手当金、育児休業給付金、失業給付などは月給をベースとする「標準報酬月額」から計算されるため、月給化によって各給付金の支給が増える可能性がある
デメリット
・一時的な資金獲得の機会喪失:まとまった賞与がなくなるため、自動車購入や大型旅行資金、投資用資金など、大きな金額を貯めるタイミングが失われる
・手取り増額幅が少ない可能性:社会保険料の自己負担額が増えるため、期待したほど毎月の手取りは増えない場合がある

社会保険への影響について

1、標準報酬月額の上昇と毎月の負担増
賞与を月例給与に振り替えることで、毎月の給与額が上がります。これにより、社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額の等級が上がり、労使双方の毎月の社会保険料負担が増加します。
企業側と従業員側の影響
毎月の給与から控除される社会保険料が増えるため、従業員の毎月の手取り額は、給与の増加額ほどは増えません。また、企業側も毎月支払う法定福利費が増加します。
手続き
給与額が大幅に変動することで、通常、毎年の定時決定(毎年9月に標準報酬月額を見直す手続き)のタイミングを待たずに、随時改定(月変)の手続きが必要になる場合があります。

2、年間の社会保険料総額の増減と上限(キャップ)の仕組み
企業と従業員が1年間で払う社会保険料などの合計額である「年間の社会保険料総額」の影響について、健康保険と厚生年金保険における報酬の上限額の仕組みが異なるために生じます。
(厚生年金の上限額について※)
・月額給与(標準報酬月額)の上限額:65万円(年間780万円) 
・賞与:(標準賞与額)の上限額:1ヶ月あたり150万円

高収入者における保険料の削減効果
特に年収が非常に高い(月給が標準報酬月額の最高等級に近い)従業員の場合、賞与を給与に振り替えることで、年間を通じて徴収される社会保険料の総額が減少する可能性があります。これは、賞与の上限(月150万円)よりも、給与(標準報酬月額)の上限(月65万円)の方が低いため、報酬の一部が保険料計算の対象から外れやすくなるためです。この場合、企業側は保険料負担が軽減されるということにもなります。

平均的な収入帯における保険料の増加効果
一方で、一般的に年収がそこまで高くない従業員の場合、上記の上限(キャップ)の影響を受けにくいため、給与化することで結果的に社会保険料の総額が増加するケースもあります。

※厚生年金上限額については現在令和7年10月現在の額で、厚生労働省では標準報酬月額の上限設定の見直しが検討されています。
参照:厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引き上げについて」

3、将来の年金受給額と公的給付への影響
社会保険料の負担が変わることは、将来の給付にも影響を及ぼします。
将来の年金受給の減少リスク
前述のように、高収入者の社会保険料が減少した場合、その原因は保険料の計算基礎となる報酬総額が、制度の上限によって抑制されたためです。
厚生年金保険料の納付額は、将来受け取る老齢厚生年金の額の計算基礎となります。そのため、保険料の負担が減った従業員は、将来の年金受給額も減少するというデメリットを負うことになります。
公的給付の増額メリット
一方で、月例給与(標準報酬月額)が上がることは、傷病手当金、出産手当金、育児休業給付金、雇用保険の失業給付などの公的給付の算定基礎額が増加することにつながるため、従業員にとってはメリットとなります。
これらの手当は、標準報酬月額や賃金日額をベースに計算されるため、給与化による月給の上昇が、万が一の際のセーフティネットの強化に繋がります。

まとめ

近年、大手企業を中心に広がる「賞与の給与化」は一見するとシンプルな制度変更ですが、多方面で影響を及ぼすため、企業は導入する際には綿密な検討が不可欠です。
また、残業代や退職金、社会保険料の総額がどのように変化するかをシュミレーションし、従業員に明確に伝える責任があります。
社会保険については 従業員の収入層ごとに社会保険料負担と将来の年金受給額への影響が異なるため、メリット・デメリットのバランスなど適切に考慮したうえで制度を設計し、労使双方にとって透明性のある説明を行うことが、制度を円滑に導入するための鍵となります。

それでは。

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