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退職者から未払い残業代を請求されたときの対応

退職者から未払い残業代を請求されたときの対応

コラム

2026.9.3

こんにちは。アルク社会保険労務士法人です。

厚生労働省が2026年8月21日に公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」によると、令和7年に全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案は22,605件でした。

当社にも、「退職した従業員から未払い残業代の請求がきた!内容証明郵便がいきなり送られてきた!」とご相談をいただくことがあります。
この際に、すぐに請求を認めたり、逆に残業申請がないとして無視したりといった対応は避け、冷静に資料確認から進めていくことが必要となります。

すぐに回答をしない

退職した従業員からの残業代の請求は、電話、メール、郵便などの方法で連絡が来る場合があります。

事実関係が分からない段階で「未払いはない」、「この金額を支払う」などと答えると、後の調査結果と食い違うおそれがありますので、実質的な回答は資料を確認してから行うこととなります。
この際、放置することもNGとなります。

退職者からの賃金請求には、相手方が書いた期限とは別に労働基準法第23条が関係してくることに留意が必要です。
同条は、請求後7日以内の賃金支払と、争いがある場合の異議のない部分の支払を定めています。残業代請求への適用は争いの内容で変わるため、早い段階で社労士又は弁護士へ確認してください。

請求内容の精査が必要

請求内容は、本人が把握する始業・終業時刻、休憩、持ち帰り作業等を前提に算出されていることがありますので、会社側の認識と一致していない可能性が高いです。

会社から見ると、業務をしていない滞在時間やパソコンの起動時間まで含むように見えることもあります。
それでも「本人に都合のよい計算だから認めない」とはただちにはなりません。

請求内容について検証するときは、少なくとも次の整理を行ってください。

・請求対象となる勤務日と、各日の始業・終業時刻
・始業前、終業後、持ち帰り、在宅勤務、準備、後片付け、待機、研修等を労働時間に含める根拠
・休憩として控除した時間
・時間外、法定休日、深夜労働の区分
・固定残業代の契約・規程・支給実績と、法定計算額との差
・管理監督者性、端数処理、基礎賃金及び消滅時効の扱い

この際の留意点として、固定残業代が支給されていることや役職名だけで、追加支払がないとは判断しないことです。
また、賃金請求権の消滅時効は5年(当分の間3年)となります。
さらに、訴訟では付加金が問題となることもあるため注意が必要となります。

まずは当時「労働時間」として把握していた記録から確認

まずは会社側が労働時間として把握し、給与計算に使用した記録から確認していく必要があります。

タイムカードや勤怠システムから実労働時間として把握した時間から未払い賃金が発生していないか確認しましょう。
また、残業申請・承認記録など、本人から申請がなかった時間帯が請求内容に含まれていないかの確認も必要です。

ただし、会社の勤怠記録があるから、その時刻が直ちに正しいと決まるわけではありません。
自己申告で記録していた場合、申告を抑える運用がなかったか、残業申請を差し戻していなかったかも確認しておくと良いでしょう。

差異がある日の取り扱い

会社側で把握している労働時間と請求内容に記載されている労働時間を日ごとに並べると、確認すべき日と時間帯を絞れてきます。
例えば、勤怠上は18時退勤であるのに、請求者が20時まで業務をしていたと主張する場合です。

このようないわゆる「隠れ残業」の主張があれば、パソコンのログオン・ログオフ、入退館、業務メール、チャット、日報、ファイルの更新履歴等を確認していきます。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においても、自己申告と入退場・パソコン等の記録に著しい差がある場合は、実態調査を行い、必要な補正をするとされていることに留意が必要です。

なお、入館から退館まで、又はパソコンを起動していた全時間が、そのまま労働時間になるわけではありません。
差異がある時間帯に何をしていたか、会社や上司の明示又は黙示の指示があったか、休憩や私的滞在ではなかったかを確認していきます。
メールやチャットも、時刻だけでなく内容をしっかりと確認していきます。

会社に都合のよい記録だけを選ぶのではなく、記録同士の差を調べることが目的とすることが必要です。

請求対応中に、過去の記録やルールを書き換えない

絶対に行ってはいけないことは、請求を受けた後に、過去の勤怠時刻などを修正してしまうことです。
また、当時なかった残業申請ルールや休憩の取扱いを作り、過去から存在していたものとして扱うこともNGです。

明らかな入力誤りを訂正する場合でも、元の記録を消さず、訂正日、訂正者、理由及び根拠を残しておくことが必要です。
請求対応に必要な原資料と、調査後に作成した比較表や聞き取り記録は区別して保存してください。

大きな認識差や他の従業員への波及があれば、すぐに専門家へ相談する

会社側が把握していた労働時間と請求内容に大きな差がある場合、単純な集計の問題とは限りません。
申告されていない残業を上司が把握していたか、業務量や締切りから所定時間内に終えることが可能だったかなど、労働時間の評価そのものが争点になる場合があります。

一人の退職者への対応でも、同じ部署や同じ制度を使う退職者・在職者へ影響する可能性があります。
目の前の請求額だけで対応方針を決めず、対象となり得る従業員の範囲も確認しておくことが必要となります。

次のいずれかに当たる場合は、会社だけで回答や交渉を進めず、社労士又は弁護士へ速やかに確認してください。

・請求期間が長い、又は請求額が大きい
・会社の勤怠記録と請求者の主張に大きな差がある
・固定残業代又は管理監督者性が争点になっている
・複数の退職者又は在職者へ波及する可能性がある
・代理人弁護士、労働組合が関与している(弁護士相談)
・労働基準監督署が関与している(社労士相談)
・会社に必要な記録が残っていない
・既に一部の事実又は支払義務を認める回答をしている

相手方との交渉、和解、訴訟対応は原則として弁護士への相談となります。
ただ、請求内容として、あっせんの申立がある場合については、特定社会保険労務士への相談も可能です。
労働時間・賃金制度の整理については社会保険労務士へご相談ください。

それでは。

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