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【賃金のデジタル払い】従業員からの希望にどう対応する?

【賃金のデジタル払い】従業員からの希望にどう対応する?

コラム

2026.7.10

こんにちは。アルク社会保険労務士法人です。

今回は、「賃金のデジタル払い」について解説させていただきます。

給与のデジタル払いは、2023年4月に解禁されましたが、実際の導入は厚生労働大臣から指定を受けた事業者(資金移動業者)ごとに順次開始されています。
大手では2024年9月にPayPay銀行から実際の給与支払いが開始されており、利用可能な事業者は拡大している状況です。

  • 2026年7月1日時点での、指定資金移動業者一覧はこちら。

  • 賃金デジタル払いについての概要はこちら。

まず従業員から賃金のデジタル払いについての希望が出たときに、会社として対応すべきものなのかという点です。

結論からいうと、希望があったからといって必ず対応しなければならないものではありません。
賃金のデジタル払いは、賃金の支払い・受け取り方法の選択肢の1つであり、労働者にも使用者にも導入が強制される制度ではないとされております。

出典:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」

従業員から賃金のデジタル払いの希望があった際、会社で最初に検討すべき事項は、以下の項目です。

・そもそも会社として賃金のデジタル払いを導入するか

・導入する場合、どの指定資金移動業者を取り扱うか

・給与の全部ではなく一部支払いにするか

・既存の銀行振込や証券総合口座への払い込みも選択肢として残すか

・給与計算ソフトや振込データ作成が実務上対応できるか

また、賃金のデジタル払いを導入したとしても、希望する従業員から個別の同意を得て実施する制度のため、すべての従業員の支払方法を変更する必要はないことにも留意が必要です。

労使協定で先に決める4つの範囲

では、賃金のデジタル払いを導入すると会社が判断した場合、どのように進めれば良いでしょうか。

まず最初のステップとしては、労使協定の締結が必要となります。
会社における必要な手続きとして、指定資金移動業者の確認、導入するサービスの検討、労使協定の締結、労働者への説明、個別同意の取得、賃金支払いの事務処理の確認・実施とされております。

賃金のデジタル払いを導入する にあたって必要な手続きの詳細はこちら。

また、労使協定で記載すべき事項は、次の4点です。

・対象となる労働者の範囲

・対象となる賃金の範囲とその金額

・取扱指定資金移動業者の範囲

・実施開始時期

労使協定においては、正社員だけを対象にするのか、パート・アルバイトも対象にするのか、役員報酬は対象外とするのか、賞与や退職時の最終給与を含めるのかなどについて確認していきます。

また、労使協定で選定できるのは、厚生労働大臣が指定した資金移動業者です。
厚生労働省の指定資金移動業者一覧では、令和8年7月10日現在、賃金のデジタル払いが認められる指定資金移動業者数が4社(PayPay銀行、株式会社リクルートMUFGビジネス、楽天Edy株式会社、auフィナンシャルサービス株式会社)とされています。
従業員が利用したいサービスがあっても、それが会社の取扱指定資金移動業者の範囲に入っていなければ、すぐに支払先として扱えるわけではありません。

この点は、銀行振込よりも社内運用が複雑になりやすいところです。
銀行口座であれば従業員ごとに口座情報を受け取り、振込データに反映する流れが確立している会社が多いと思います。
一方で、資金移動業者口座の場合は、サービスごとに必要な情報、受入上限額、指定代替口座、保証機関、送金処理の方法が異なります。
労使協定を作る前に、給与計算担当者が実際に運用できるかを確認しておく必要があります。

参考:労使協定の記載例はこちら。

同意書で見るのは受取額だけではない

労使協定を締結しただけでは、個々の従業員に賃金のデジタル払いを始めることはできません。
希望する労働者に対して、必要事項を説明し、個別の同意を得る必要があります。

賃金のデジタル払いを希望する労働者は、留意事項等の説明を受け、制度を理解した上で、同意書に賃金のデジタル払いで受け取る賃金額、資金移動業者口座番号、指定代替口座情報等を記載して、使用者に提出することが必要となります。

ここで実務上大事なのは、資金移動業者口座は、預金をするための口座ではなく、支払や送金に用いるための口座であるという点を、従業員に説明する必要があるということです。
給与の全額を受け取るのか、一部だけを受け取るのか、上限額を超えた場合にどう処理されるのか、破綻時にどの口座へ弁済されるのかを確認しておくことになります。

会社側で同意取得時に確認が必要なのは、たとえば次の項目です。

・賃金のうち、デジタル払いで受け取る金額

・対象にする賃金が基本給のみか、手当や賞与も含むか

・資金移動業者口座に賃金を振り込むために必要な情報

・指定代替口座の情報

・従業員が留意事項の説明を受け、理解したこと

・銀行口座等で受け取る選択肢も提示したこと

同意書をもらう場面では、従業員が便利さだけを見ていることがあります。
会社としては、便利だからよい、というだけで進めず、給与支払日に確実に支払えるか、従業員が受け取り方法の性質を理解しているか、あとで同意の有無を説明できる記録が残っているかを確認してください。

賃金規程の改定と給与計算の実務で詰まりやすい点

賃金のデジタル払いを導入する場合、賃金規程、雇用契約書、給与計算システム、振込データ作成、給与明細の表示などにも影響します。

たとえば、賃金規程に「賃金は本人名義の預貯金口座へ振り込む」とだけ書かれている場合、賃金規程の改定が必要と解されます。

また、給与計算では、次のような確認が必要です。

・基本給は銀行口座、手当の一部は資金移動業者口座といった分割支払いができるか

・給与計算システムから必要な支払データを作成できるか

・振込手数料や送金処理の社内負担をどう扱うか

・給与支払日が休日の場合の処理にずれが出ないか

・退職者の最終給与や賞与を対象にするか

・同意を撤回した場合の変更締切をどう管理するか

ここまで見ると、従業員が1名希望しただけでも、会社全体の給与支払フローを確認する必要があることが分かります。
特に、給与計算を外部委託している場合は、委託先が対応できるサービス、データ連携の締切、同意書の保管方法も確認してください。

なお、賃金のデジタル払いについて、銀行口座か証券総合口座を選択肢としてあわせて提示しなければなりません。
デジタル払いを導入する場合でも、従業員が従来どおり銀行口座で受け取れる状態を残しておくことが前提になります。

導入するか、しないかを決める前に

賃金のデジタル払いは、新しい制度であり、従業員から見ると便利に感じられる場面があります。
一方で、会社側では、労使協定、個別同意、指定資金移動業者の選定、賃金規程、給与計算、説明資料、記録管理などの実務面での多様な対応が必要となります。

従業員から希望が出た場合でも、すぐに「できます」、「できません」と答えるより、まずは会社として導入するか、導入するならどの範囲にするかを整理するとよいでしょう。
便利な制度ほど、最初の設計を曖昧にすると、あとで実務面に影響が出ます。

もし従業員から賃金のデジタル払いについて相談があった際は、社会保険労務士にご相談ください。

それでは。

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